通話 ロベルト・ボラーニョ
今読んでる短編集です。
通話 ロベルト・ボラーニョ
ラテンアメリカ文学。ロベルト・ボラーニョの初期短編集です。
冒頭作の「センシニ」は若い作家志望の「僕」と老作家「センシニ」の文通による交流を描く。二人は生活費のため地方文学賞に応募する「同志」として出会い、新聞記事を漁って集めた地方文学賞の募集情報を交換します。先輩作家である「センシニ」は旺盛な投稿活動を手紙に記して送ってきます。
今のところ出口は文学賞への応募しかないのだ、と。賞を追いかけてスペインの地図上を散歩しているようなものですね、と彼は書いていた。もうすぐ六十歳になりますが、二十五歳の若者のような気分です、と、手紙の末尾か、もしかすると追伸で言い切っていた。最初はとても悲しい台詞に見えたけれど、二度目か三度目に読んだとき、彼はこう言っているのではないかと思った。君はいくつなんだい、坊や? 僕はすぐに返事を書いたと思う。僕は二十八歳、あなたより三つ年上なんですよ。その日の朝、僕は、幸せというのが言いすぎなら、ある種の活力、ユーモアの精神にとてもよく似た活力、記憶にとてもよく似たユーモアの精神を取り戻したような気分になった。
(「センシニ」より)
しかし、「僕」は「センシニ」ほどには必死に応募しなかったのかもしれない。応募できなかったのかもしれない。それから時が経ち「センシニ」は故郷の国に帰り音信は途絶える。「センシニ」の死が伝えられる。
ある日「センシニ」の娘「ミランダ」が父の住所録を頼りに訪ねてくる。「ミランダ」は、「僕」が、当時母親と「ガンマン」とか「賞金稼ぎ」とか「首狩り族とか何とか」と名付けていた、父と一緒に文学賞に応募していた人であると気づき打ち解けます。そのあとのラストシーンがいいです。ちょっと感傷的すぎる気はするけれど。
ふいに僕は、二人とも穏やかな気持ちになっていることに気がついた。何か不思議な理由で、僕たちはこうしてここにいる、そしてこれから先、いろいろなことが、かすかにではあるが変わろうとしているのだ。世界が本当に動いているような気がした。僕はミランダに歳はいくつかと尋ねた。二十二よ、と彼女は言った。じゃあ僕は三十過ぎてるってことか、と僕は言った。そして、その声さえも自分のものとは思えなかった。
(「センシニ」より)
それなら僕は三十一じゃんか! と思っちゃったのは秘密。
ちなみに、地方文学賞への応募を扱ったこの先品は、サンセバスティアン市小説賞を受賞しているそうです。
通話 ロベルト・ボラーニョ
目次
1 通話
センシニ
アンリ・シモン・ルプランス
通話
2 刑事たち
芋虫
雪
ロシア話をもうひとつ
刑事たち
3 アン・ムーアの人生
独房の同志
クララ
ジョアンナ・シルヴェストリ
アン・ムーアの人生
解説 いとうせいこう
訳者あとがき
こうして目次を見ていると、人物名らしき短編が多いのが特徴です。
他にどんな話があるのか楽しみ!